〔書き出し小説 230〕喪服





経理部の田原さんは
毎週金曜日、喪服を着て仕事をする。


〔書き出し小説 231〕ドライ人間



乾物屋でポイントカードがいっぱいになり、
人間の干物を進呈された。


〔書き出し小説 232〕観闇旅行




30XX年、人々は光ではなく闇を求めて
旅をするようになった。

サンシャインツアー自慢の5泊7日のコースでは
朝食をとりながら高層ホテルの屋上から灰色のビル群を眺め、
バスで移動後、
巨大ゴミの山にて廃棄物を見学。

翌日からはスラム街でのホームステイが待っている。



〔書き出し小説 233〕増殖書物




書物は夜、増殖する。

図書館で、書店で、倉庫で、あるいは個人の書斎で。

隣接した言葉同士が新たな結合を行い、
異質なものが組み合わされ、
新しい意味がつくられる。


寄生虫が母体を通じて我が意を通そうとするように。

ここで書き手と呼ばれる人間は、ただの媒介物にすぎない。


〔書き出し小説 234〕修羅場消防隊




修羅場消防隊が現れ、
アキ子とマサ男、それにカナエの三者に
水が勢いよく噴射された。


〔書き出し小説 235〕ゆかいなEEP家




毎週日曜夜7時。

火星に住むNM人であるEEP一家の生活が
テレビ中継される。



〔書き出し小説 236〕鎮痛剤




城ノ内治美は給湯室で
暴言・失恋によく効く鎮痛剤を飲みこんだ。

頭痛・生理痛用の鎮痛剤で有名なA社より
最近発売された新処方である。


〔書き出し小説 237〕へその緒




お母さんの橋詰よう子さんと息子の健太君は
へその緒を切らずに暮らしていくことにしました。



〔書き出し小説 238〕血液Bar




蚊がぷ~んとやって来て、
バーテン自慢の止まり木に止まった。

「何にしましょう」

バーテンのコウモリが注文を聞くと、
珍味好きの蚊はRhマイナスの血はあるかと尋ねた。


奥の席ではヒルが
アメリカ人A型の血液を吸っていた。



〔書き出し小説 239〕プライスレス



その店では最も値の張るメニューが「スマイル」である。



〔書き出し小説 240〕社会人免許制度




社会人の資格を発行するプロテストが全国で施行され、
第一回試験を受験した現役選手の半分が落選した。



〔書き出し小説 241〕レッドリスト




ホモ・サピエンスが絶滅危惧種に指定された。


〔書き出し小説 242〕お見合い




釣書に同封された見合い写真は、
顔にモザイクがかかっていた。




〔書き出し小説 243〕恋をして、結ばれる




強度のナルシストである成田静香さんは
ご自身だけの子どもを持とうと検討している。



〔書き出し小説 244〕体型別労働



その会社は体型ごとに部署が編成される。


肩幅部、長身部、胸板部、細腕部、巨乳部、短足部……。

社屋の8階では、猫背部・部長補佐の笹本氏が
O脚部の新人・大野に
今夜一杯やろうと持ちかける。


〔書き出し小説 245〕時報メディア




ついに時報さえ、
あの事務所のタレントが報じることになった。


〔書き出し小説 246〕募金お願いします




募金呼びかけ隊の次なる派遣先は
南のほうにある無人島。



〔書き出し小説 247〕壁の向こうの隣人




トントントン。

深夜2時、隣室より壁がノックされ、
わたしたちの奇妙なやり取りが始まった。



〔書き出し小説 248〕席次表


堂島家の冠婚葬祭では、席次が背の順で決まる。

育ち盛りのケンイチが伯父のミツオを昨年抜いた。



〔書き出し小説 249〕専用車両




真弓の待つホームに列車が入ってきた。

美女専用車両、醜女専用車両。

どちらに乗るか、それが問題だ。


〔書き出し小説 251〕専用の時間




深夜0時、7人の男女が集まった。

こらえきれない笑いをこぼしながら、
不敵な目くばせをする。

「背徳感がたまらないの……」

「ルールは逸脱するためにあるんです」

彼らの手には
朝専用コーヒーが握られている。


〔書き出し小説 252〕script of life




「67年分です。生まれる日までに暗記してくださいね」

ドサッと紙の束が積まれ、
人生の台本が渡された。


〔書き出し小説 253〕毒人間




ヘビやキノコに有毒種があるように、
上代勇人もまた
体内に毒をもっていた。



〔書き出し小説 254〕透明生物




「水中にはクラゲとか魚とか
 体が透明の生き物がいるのに
 なんで陸にはいないんだろうね」

「へ? ……いるじゃん。どこにでもいるじゃん」

「……エッ?」


〔書き出し小説 255〕臓器リレー




阿部さんの腎臓を伴藤さんが使い、
千久間さんの角膜を淡野さんが使い、
榎本さんの血液を福田さんが使う。

彼らはおおむね仲良しだ。


〔書き出し小説 256〕へそキノコ




変なものでも食べたのだろうか。

へそからキノコが生えてきた。



〔書き出し小説 257〕非正規の女




原島直子はもぐりの妊婦だ。



〔書き出し小説 258〕守護霊キャラバン




守護霊のキャラバンが街にやってきた。


〔書き出し小説 259〕仏の姿勢



奈良の大仏は、足がしびれていた。

福岡の涅槃像は、床ずれが痛い。



〔書き出し小説 260〕脳カビ



今日は雨。

「どうも頭がムズ痒くて」

主婦の松本夢未の脳にはカビが生えていた。



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