〔書き出し小説 201〕 詩人のつくった法律




その国では法律の制定に詩人が登用されるため、
祖父は国会に出かけていった。


〔書き出し小説 202〕 国家合併



日本が合併してくれる相手国を募集している。


〔書き出し小説 203〕 二度めのボーイズソプラノ




父に二度めの声変わりが起こり、
再びボーイズソプラノの音域に戻った。

「メシ、フロ、寝ル」

天使の声が、我が家にこだまする。


〔書き出し小説 204〕 付加価値の時代



Wクリニックでは、麻酔をして体の感覚が眠っている間、
脳に映像を流してくれるサービスがある。

「どれがよろしいですか?」

①紀元前の美女グラビア
②紫式部によるケータイ小説解説講座
③マリー・アントワネットを担当したカリスマ美容師のインタビュー

サンプル写真の書かれたカードの前で、ナースが微笑む。



〔書き出し小説 205〕 R-75



その図書館では長寿の者にのみ
読むことを許された書物がある。

仲谷泰三の誕生日がいよいよ明日、やってくる。


〔書き出し小説 206〕 中腰の女




子供を幼稚園に送りだし、ふと目をやると
壁に掛けたレプリカ『落穂拾い』の女の腰に
サロンパスが貼ってある。

息子は来年、満6歳。

思わぬ成長を遂げているようだ。



〔書き出し小説 207〕 女性参政権



過去の歴史の揺り戻しらしい。

ここからしばらく、おそらく4世紀くらいの間、
女性のみが投票権を得ることになった。



〔書き出し小説 208〕 コンシェルジュサービス



コンタクトレンズを新調したところ、
今ならコンシェルジュサービスが付くという。

「イルカとおじいさんから選べますけど」

診察ボードを胸に抱えたナースが言う。

「じゃあ、おじいさんで」

帰宅してからコンタクトを装着すると、
視界に小さな老人が現れた。

「ふぉっふぉっふぉ、よくぞわしをお選びになった」

年取った男がなんか喋った。




〔書き出し小説 209〕 追加のきょうだい




両親に「おまえは川原で拾ってきたんだ」と言われて育った
浜本タケルは、ある月の綺麗な夜
ふと妹か弟が欲しくなり、
川辺にきょうだいを探しにいきました。



〔書き出し小説 210〕 便利な体



大野明見は忙しかったので体をバラすことにした。

右手は家計簿をつけ、
下半身は夜のお務めをし、
頭はPTAの役回りについて考えた。

賃貸住宅のあちこちで、明見の体が蠢く。



〔書き出し小説 211〕 原田家モデル




原田敏郎以下、家族4名が30年暮らす一軒家が
ドールハウスになった。



〔書き出し小説 212〕 偉業を称える場所




資本主義もいよいよ末期だ。


高額納税者の顔が、
紙幣に刷られることが決まった。



〔書き出し小説 213〕新業態




父と母が壮絶な喧嘩をしてから、
我が家では食事が
回転ずしのレールにのって供される。


〔書き出し小説 214〕応募書類




就職したい企業ランキング上位のあの会社は、
リクルーターに手相のコピーを要求する。



〔書き出し小説 215〕裁判所 at home




3LDKの我が家のダイニングは
家庭裁判所になっている。


〔書き出し小説 276〕珍味脳みそ



地球外生物R-SUの間では、人間の脳みそが大人気。

とくに哲学者と詩人の脳は二大珍味として高値で取引されていた。


〔書き出し小説 216〕眼球タトゥー




梨木佐保里は眼球タトゥーを施した。

「えっ? なんて言ったの?」

黒地にうすい桃色に染められた目玉が2つ、
こちらをじっと見つめる。


〔書き出し小説 217〕叱られ代行業務




叱られスタントマンの近藤啓太は、
4月がいちばん忙しい。



〔書き出し小説 218〕チーム外国人




外国人のみで構成された葬儀屋チームが
予約満杯だという。




〔書き出し小説 219〕ゼリーフィッシュ



われわれ夫婦は
ゼリーの中に住む魚を飼うことにした。




〔書き出し小説 220〕脳味噌マッサージ



脳味噌マッサージ師の上床鎮成は
この道10年のベテラン。



〔書き出し小説 221〕蚤の市




あの家族が、フリーマーケットで
腎臓を売っている。



〔書き出し小説 222〕鵜の友人




過労で失業中の夫の日課は
鵜飼いを引退した鵜のエサやり。


〔書き出し小説 223〕捕獲物:人魚




人魚水族館で老女の人魚が一尾、亡くなった。

漁師宿を営む我が家に
若い人魚の捕獲依頼が舞い込んだ。



〔書き出し小説 224〕美形脳みそ




人間、一人ひとり顔が異なるように
脳の形状も異なる。

その点において樫原翔太は
脳味噌界の美男子といえた。



〔書き出し小説 225〕レンタル乳児




レンタル乳児の仕事を始めて4か月が経つ。

仕事といってもやることは簡単だ。

不定期に入る連絡にしたがってセンターまで子供を預けに行き、
数時間後または数日後、迎えに上がる。


返却された子供には無論、外傷はないし
見たところ何の変化もない。

始める前はもちろん不安もあったが、
シングルマザーの私は正直ほっとしていた。

出産後から振り回されっぱなしの赤子がほんの少し手を離れて、
やっと夜泣きに邪魔されず、まとまった睡眠がとれる。
そして先行きの見えない経済状況の足しにもなると思うと
センターに出会えたことが類まれな幸運に思えた。

夜、ふと、ある考えが頭をよぎり、ぞっとした。

わたしの産んだ子が
ちがう名前で呼ばれ、
よその誰かの実子として胸に抱かれている。



〔書き出し小説 226〕棄てられた二人




人形の墓場で、
片腕の取れたテディベアが、半分頭皮の見えるバービーに声をかける。

「今日は月が綺麗だね」



〔書き出し小説 227〕ねばりけ




中学生の息子が何をさせても飽きっぽいので、
母親の美枝子は粘りが出るようにと山芋を食べさせることにした。



〔書き出し小説 228〕もうひとつの家庭




父には家とは別に、もうひとつ家庭があって、
田原町で3人暮らしをしている。


母にももうひとつ違う家庭があって、
引田町で4人と2匹で暮らしている。



〔書き出し小説 229〕オフィス・カー




社長が馬鹿デカい車を買ってきて
今日からわが社は社内で業務をすると宣言した。


「流れる車窓を眺めて働き、
昼には着いた先で旨いものを食べよう」

社員ははぁ……と唖然としながらも
各自、仕事の道具をまとめにかかった。




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