〔書き出し小説 147〕滲出




三日坊主のまま書棚においてあった日記帳は、
長年、サリンジャーとカフカの間に挟まれていたため
両側からしみ出た言葉で
4日目以降の物語がつづられていた。


〔書き出し小説 148〕脱皮




ああもう今年もそんな時季か。

夫が脱皮をする音で
今夜はきっと眠れない。


〔書き出し小説 149〕国家ショッピング




太郎さんはとてもよく働いてお金持ちになったので
まるごとひとつ、国をお買い上げになりました。


〔書き出し小説 150〕百合と酒




百合があまりに艶めかしく咲くので
ためしに酒を与えてみたところ、
めくるめく夜がひらいた。


〔書き出し小説 151〕通勤着



経理部の矢島さんが
ウェディングドレスで通勤してきた。


〔書き出し小説 152〕マンション町




ささのは町は町といっても一つのマンション。

町の機能を建物内部にまとめてしまえば
満員電車も渋滞も、暑さ寒さも
一切すべてが蚊帳の外だ。

小暮紹子は今日、
47階のオフィスで仕事を終えると
23階の美容院で散髪、そのあと
16階のイタリアンで軽く夕飯を済ませてから
68階の自宅に戻って床につく。


〔書き出し小説 153〕高熱


ウィルスに侵された夫は
あまりに高熱になりすぎた。

ぷすぷすと音がしたかと思うと
体から煙が出、
いまやこんがりとキツネ色に焦げている。



〔書き出し小説 154〕劇場版『般若心経』




アーケードの映画館に張り紙がはられた。

「劇場版『般若心経』coming soon!!」


〔書き出し小説 155〕お爺ちゃん




ゲームのコントローラーを
試しに祖父に向けてみたところ、
なんと動いた。


〔書き出し小説 156〕勾玉工場




土産物用の勾玉キーホルダー工場に就職した
実奈子の本当の夢は予言者になること。


〔書き出し小説 157〕堪忍袋100枚




堪忍袋がワゴンセールに出ていたからと、
母がまとめ買いして近所に配った。


〔書き出し小説 158〕DO IT YOURSELF



「コスモスの種を自分で作る」

そう言って妹は部屋に入っていった。


〔書き出し小説 159〕ふたつの瓜




隣室に越してきた人物は
わたしに瓜二つであった。


〔書き出し小説 160〕知らないゲーム



うしろから突然肩をたたかれ
数人の男たちが僕を走りぬいていった。

友好的に手招きされたのでなかに入ってみると
男たちはいくつかの道具を使って僕の知らない球技を始めた。

何度かボールがまわってきた。

どうしていいかわからず周りを見回そうとすると
ボールはもう誰かに奪われ、僕の手元からは消えていた。

彼らは指示を出し合い、檄を飛ばし合い、
ときにはファインプレーを称え合いながら
ゲームのルールにのっとって俊敏に動く。


ピーッと笛が鳴った。

僕の負けらしい。

罰金の請求書を持った審判が
僕に近づいてきた。


〔書き出し小説 161〕拷問代理会社



うちの会社のある雑居ビルの9階に
拷問代理会社が入居してきた。



〔書き出し小説 162〕横顔



初めて出会ってから10か月。

私はまだ浜本君の横顔しか見たことがない。


〔書き出し小説 163〕メイルボックス



奇妙なことが起こった。

いつも「2」に合わせている郵便箱の目盛りが
仕事から帰ると7日連続で「0」になっている。



〔書き出し小説 164〕人類憐みの令



あまりの事態を見かねたらしい。

「人類憐みの令」が発布された。


〔書き出し小説 165〕ロンリーしゃれこうべ




体育座りのしゃれこうべが、
こちらに背中を見せている。


〔書き出し小説 166〕永久のつぎの歯



「このサプリを一週間、飲みつづけると
もう一度、歯が生え変わります」

アーノルド・シュワルツネッガーのような笑顔の男が
ドラッグストアに立っている。


〔書き出し小説 167〕屍モデル


屍の蕪木治子は
絵画モデルに引っ張りだこ。


〔書き出し小説 168〕マトリョーシカ


マトリョーシカの4番目が
役割分担に不服があるとして、
入れ子人形たちの集会を催した。


〔書き出し小説 169〕遠くから、やさしく




やさしい宇宙人T7が望遠鏡を使って観察する世帯に
日本の丸山さん家が選ばれた。



〔書き出し小説 170〕エイジング閏年


加齢にも閏年があるらしい。

エミコの弟は、今年は年をとらなかった。


〔書き出し小説 171〕うろこ



ネイリストの香穂は、夏の終わりから
体にうろこが生えてきたことで
ちょっとご機嫌斜め。


〔書き出し小説 172〕熟成の人柄



成熟した知性のために。

父は脳みそを発酵させ、
母は燻製にした。


〔書き出し小説 173〕請求書



愛する恋人との初めての朝。

目覚めると枕元に請求書が置いてあった。



〔書き出し小説 174〕世襲



争い事を好まないその国では
首相も、画家も、アイドルも、
すべての職業が世襲で担われている。


〔書き出し小説 175〕じゃんけんプロポーズ



「結婚してください」

二年弱つきあった恋人にプロポーズをしたところ
意外な答えが返ってきた。

「じゃんけんで決めない?」



〔書き出し小説 176〕受け止めプロフェッショナル



クレーム処理係として採用された後藤君の学生時代は
バレーボール部のレシーブ専門、リベロ。


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