〔書き出し小説 71〕 ちきゅうきぼ




世界平和のことなんて、考えなければよかった。


〔書き出し小説 72〕 鏡像



春日井琴子には秘密があり、
鏡によって異なる姿が映る。



〔書き出し小説 73〕 東西語り手対決




紫式部はシェヘラザードに涼やかな微笑を送った。

物語に愛されているのは自分であることに
みじんの疑いもなかった。




〔書き出し小説 74〕 文化遺産キャバクラ




古典芸能技芸保持者として名高いキャバ嬢のレイナは、
300年前にはキャバクラにも風当たりの強い時代があったのだと
懐かしそうに解説する。




〔書き出し小説 75〕 踊る団体




となりの部屋に民族舞踊団が越してきた。


〔書き出し小説 76〕 絶滅




『なぜ人間は絶滅したのか』
という書物を
ミドリ色のぬるりとした触手が開かんとしている。


〔書き出し小説 77〕 研の歌




耳鳴りで昨夜より研ナオコが歌っている。


〔書き出し小説 78〕 睡眠利回り




投資コンサルタントがやってきて、
眠っている間の時間を投資に回すように勧める。

「生涯の実に3分の1。
 睡眠時間も有効活用しなくては」


〔書き出し小説 79〕 口内ペット



口の中で飼うペットが流行している。


〔書き出し小説 80〕 等身大思考回路



相原トモキの思考回路で
巨大迷路が開催される。


〔書き出し小説 82〕 最低限愛情保障



ミニマムインカム(最低限所得保障)ならぬ
ミニマムアフェクション(最低限愛情保障)制度の一環として、
蓮本純が家にやって来た。


〔書き出し小説 83〕 命日の在処



九重純子は、自分がいずれ死んでしまうことに
まだ気づいていない。


〔書き出し小説 84〕 Mt.Fuji



富士山が、あの国に買収された。


〔書き出し小説 85〕 webカメラ



部屋にカメラを設置したところ、
ふだん鏡で見ている自分とは違う人物が映し出された。

動作はこちらと同期しているので、
どうやらこれも私であるらしい。


〔書き出し小説 86〕 くじ引き正義





入り口でくじを引いた。

しばらくののち不安になり、近くの男に
あのくじは何だったんですかと尋ねると
男はにこっと人の良さそうな笑みを浮かべて言った。


「正義の所在ですよ。
 あとで揉めないように、誰が正しいかを
 あらかじめ決めておくんです」




〔書き出し小説 87〕 飼い人




大型宇宙人のS.S.Eは
ペットに日本人を飼っている。



〔書き出し小説 88〕 rules make the world.





サッカープレイヤーの牧田は今日、目を覚ますと
自分以外のすべての人がサッカーのルールを忘れていた。

そんなゲームがあったことさえ。

牧田は途方に暮れた。

どんなにうまくプレイをしたところで、
その動作に意味を付す者がいなくなったからだ。





〔書き出し小説 89〕 愛のやり方





ルミ子は愛されていた。

しかし常々、「その愛し方じゃない」と思っていた。



〔書き出し小説 90〕 リモートコントロール




あなたを操作するリモコンを息子が10年ほど使っていたようなのですが、
このたびお返しに上がりました。


そう言って初老のご両親が
黒い長方形のプラスチックを取り出した。



〔書き出し小説 91〕 泣き女


就職セミナーに
泣き女たちがブースを出している。



〔書き出し小説 92〕 my chilled father




父が冷蔵庫から出てこない。


〔書き出し小説 93〕 書物の連れていく場所





ヒロシは推理小説を、
タカシは自己啓発書を。

それぞれ年に30冊ずつ、15歳から10年間読み続けた。

これは10年後に再会した、二人の物語である。



〔書き出し小説 94〕 つながる




部屋にあった謎の突起に
ためしにケーブルをさしてみた。


〔書き出し小説 95〕 仕事参観




市役所に努める本上学(42歳)が不安そうに振り返ると、
壁際のパパとママが小さく手を振った。


〔書き出し小説 96〕 Français サザエ




『サザエさん』をフランス語で観た時の寂寥感を、
私はきっと忘れない。


〔書き出し小説 97〕 宦官専門学校




B組の佐山亨が
宦官専門学校に入学した。


〔書き出し小説 98〕 ABOAB



血液型診断が
国教に制定された。



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