〔書き出し小説 42〕 イロトリドリ



若い娘たちは、野の花を摘むように
口紅や頬紅を買った。

季節の移ろいを引き入れなければ
死んでしまうとでもいうように。



〔書き出し小説 43〕 失われた右心室



心が狭くて偏狭だと幼少のころから思っていた次男が、
心電図によると本当に右心室がなかった。

道理で。

一瞬の得心のあと、
一般4DKのところを3DKで生活してきた彼を思い、
失われた一室のことを思った。



〔書き出し小説 44〕 労働市場



時給900円。月額25万円。時価。……。

さまざまな値札の書かれた場所に通された。

ここでは労働が売られている。

ターバンを巻いたガイドが説明のために息を吸った。



〔書き出し小説 45〕 overdue



前の妻が、私の時間を返せというので、
返却手続きに赴く。


〔書き出し小説 46〕 灯籠



20××年 お盆。

先祖が、わたしを叱りに帰ってきた。


〔書き出し小説 47〕 しとやかな焚書



映画、音楽、小説、詩……。

この世に多くが生まれすぎたとして、
当局が年に10ずつ消していくことになった。



〔書き出し小説 48〕 水曜日



玉置里美の一週間に
水曜日が2回来るようになって
七年が経つ。


〔書き出し小説 49〕 複雑



技術の進歩により、向こう50年の天気が予告できるようになった。



〔書き出し小説 50〕 a professional liar


語り手なんてそもそも不埒。
私はこれから嘘をつく。

都合主義で歪んだ、身勝手な嘘だ。



〔書き出し小説 51〕 言葉狩り



国語辞典が発禁になった。




〔書き出し小説 52〕 分裂



一人でいても多すぎる気がしていた
堂島要は
この機に分裂することにした。



〔書き出し小説 53〕 だれもいない



鏡の前に立ったが、
なぜか姿が映らない。



〔書き出し小説 54〕 もれなくもう一つ



本木夫妻に双子が生まれた。

「当たりだ」

夫の頭に瞬時に浮かんだのはこういうことだった。


〔書き出し小説 55〕 首長族のAV




納屋の掃除中、卒業アルバムの下から
埃をかぶった首長族のAVが出てきた。


〔書き出し小説 56〕 やりとり



ついに米さえ、月額料金になった。


〔書き出し小説 57〕 大河文明



川沿いに引っ越して8年、
飯森家に文明が誕生した。


〔書き出し小説 58〕 マネキン



マネキンの夕子は、途方に暮れていた。


〔書き出し小説 59〕 生きる



「こんなはずじゃなかった」

そういって、87歳の祖母は息を引き取った。



〔書き出し小説 60〕 御一行様




4階では地蔵たちの会議が行われている。



〔書き出し小説 61〕 計画停電



少子化対策として計画停電が行われるようになって6年が経つ。



〔書き出し小説 62〕 路上証明写真



本橋大輔は
路上の証明写真カメラマンである。



〔書き出し小説 63〕 免疫注射「男」




上京前に免疫注射「男」なんてものを
打ったのが間違いだった。


〔書き出し小説 64〕 分類の業



人間は二種類に分けられる。

人を二種類に分ける人間と
分けない人間だ。



〔書き出し小説 65〕 だんだん大きくなる音



枕元にちいさな鼓笛隊が近づいてきた。


〔書き出し小説 66〕 ねむけ




その薬屋は眠気を処方する。



〔書き出し小説 67〕 着る思想


「似通った思想の持ち主同士は
 ある程度同様の服装をしています」

そう言うと副官長は窓をコツコツと叩いた。



〔書き出し小説 68〕 ハッピーエンド



この物語はハッピーエンドで終わることを予めお伝えしておく。



〔書き出し小説 69〕 コミュニケーション税


新潟市ではコミュニケーション税が施行されることになった。



〔書き出し小説 70〕 善人の条件



午後7時、見合いサイトにログイン。

希望条件を〔善人〕で絞ると
〔天然もの〕と〔養殖〕の二種類が現れた。

2秒の静止ののち、エミ子は〔養殖〕を選択した。




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