《本日のお客さま》 行列


年齢:45歳
性別:男性
主な用途:多くの人を順序よく連ならせる



私の話を聞きたいというのは君かね。
フン、よかろう。

私の名前は「行列」。君も知っているとおりだ。

仮に自らを定義せよと求められたならば、こう述べようと思う。

「行列とは、民衆の何かを欲する衝動と
それを社会に表出させる際にかかる内的圧力との
拮抗の結晶である」と。

行列には時として、魔力が宿る。


日本の皆さんの私への歓迎には、無論感謝をしている。

君たちは私の真の理解者だ。

「列に並ぶ」とは、単に事をスムーズに済ませるためのものではない。

失礼、君たちにこれを言うのは釈迦に説法といったところかな。

日本人の列を味わうことへの貪欲さには
私自身を驚かせるものがあるよ。

いつだったか、
ナントカ牧場という人気洋菓子店が5時のニュースに出たときのことだ。

列に並んだあとの中年男性がインタビューに笑顔を向けて
こう言い放った。

「2時間待って買ったキャラメルの味は格別です!」

体に衝撃が走ったよ……!

彼は理解しているのだ、万物は相対的であると。

行列を経るか否かでキャラメルの味は変わる。

この概念が市井の者にまで浸透し
さらに日常レベルで実践されている……。

それ以来、私は常に日本人の生活態度には敬意を持っている。




しかし……君たちには、なんというか、あなどれない部分もあるな。

あれには意表をつかれたよ。

確か川崎か御徒町だったかのラーメン店でのことだ。

料理人1名、アルバイト1名の小汚い店だ。

しかし私はそこで人生の分岐点となる出来事に遭遇することになる。
……生涯あの男を忘れることはないだろう。

その日私はいつものように人々を列に並ばせていた。

我が秩序の魔力下に人間どもを治め
優雅にタバコをくゆらせていた私は
突如としてある意図に気づいたのだ。

「……むっ、まさか……!!」

にわかに信じられなかったよ。

しかしそこにあるのぼり旗には確かにこうあった。

「行列のできる店」

愕然としたよ。

わかるかね?

私は…私は利用されていたのだ!!

常に人を御しては支配下におきその自由を奪ってきた私が!
束縛の手綱を握り、意のままに動かしてきた私がだ!!


その私をあのラーメン屋の店主は
宣伝の道具として店頭に置いていた……。

私が店先にいると
「釣られてもっと客が集まるから」だそうだ。

この私を私腹のために利用するとはな! ハッ!!

滑稽かい? 笑うがいい。笑いたまえ!
ハハハハハハ……。

あのラーメン職人。

信用金庫のタオルで頭を包み、
箱根温泉ホテルのてぬぐいを首元にかけていたあの男。

彼は私に大きな教訓を残した。

「あざむこうとする奴はどこにいるかわからない」

あの体験をしてからというもの私は
自らの不覚を潔く認め、
更なる行列の美学を追求することを誓った。


まぁこれも昔の話。

魔力のあるところには
猥雑なものが紛れ込むという好例のひとつだろう。





私「行列」はすでに人類の知恵という範疇をとっくに超えている。

わかるかね。
私はいまや芸術の域に達そうとしているのだ。

私が人にもたらすのは内的効果だけではない。
私は……私は美的なのだ。

そう、私は美しい。

例えば長い列を折り畳んだ際のフォルムを見よ!

一人分の細い列を
細かく折り返して形成する蛇腹模様!!

列が進むたびに、
中身の人間一粒一粒は移動をするのに
全体の外観形状が崩れない!

一人ひとりは個々の意思で動いているというのにだ!!

彼らを支配する大きな力、それこそが私だ。


または大規模イベント会場などでよく出現する
横3人並び、または横5人並びだ!

従来の列というイメージからは想像もつかない
幅のボリューム感!!

ラインと呼ぶよりはブロックというほうが相応しい様相になっても、
それでも列としての序列を失わない!

形状が変わっても、どの者とどの者が対等で
またどの者がどの者に対して優越した権利を所持しているかを
一人ひとりが的確に行動で示す。


私は私自身を超えてゆくのだ。

自らを革新してゆく者だけが
真の覇者の証。


そしてあのフォーク並び!!

トイレの個室というランダムに巡ってくる権利を前に
見ず知らずの人間同士が
瞬時に究極の公平を体現している。

機能美の極致だと思わんかね!?

宇宙人があれを見たら、
あの人々が何か別の大きな力に動かされていると気がつくに違いない!!


つくづく自分の魔力に惚れ惚れするよ。

………私は……美しい。



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